2025年大河ドラマ「豊臣兄弟!」の主人公・羽柴秀長。これまでも、羽柴秀吉や浅野寧々など羽柴氏を中心に描いた大河ドラマでは、必ずメインキャストとして登場してきた。それだけではなく、豊臣政権期を描いたドラマでも重要人物の1人として登場することが多い。本書は、大河ドラマに向けて、秀長に関するこれまでの研究をほぼすべて網羅した書籍である。
総論 羽柴(豊臣)秀長の研究 柴裕之
第1部 羽柴秀長の立場と活動
Ⅰ 羽柴秀長文書の基礎的研究 小竹文生
Ⅱ 但馬・播磨領有期の羽柴秀長 小竹文生
Ⅲ 羽柴秀長の丹波福知山経営――『上坂文書』所収羽柴秀長発給文書の検討を中心に 小竹文生
Ⅳ 豊臣政権と豊臣秀長 播磨良紀
Ⅴ 豊臣政権の取次――天正年間対西国政策を対象として 戸谷穂高
Ⅵ 豊臣秀長と徳川家康 三浦宏之
Ⅶ 豊臣政権の九州国分に関する一考察――羽柴秀長の動向を中心に 小竹文生
Ⅷ 豊臣政権と国郡制――天正の日向国知行割をめぐって 中野 等
第2部 豊臣一門大名秀長の領国支配と一族・家臣
Ⅰ 豊臣秀長の築城と城下政策 秋永政孝
Ⅱ 豊臣秀長と藤原鎌足 黒田 智
Ⅲ 秀長執政期の紀州支配について 播磨良紀
Ⅳ 近世社会への歩み 三尾 功
Ⅴ 豊臣氏の紀州支配 矢田俊文
Ⅵ 羽柴秀保について 桑田忠親
Ⅶ 『聚楽行幸記』の御虎侍従について 北堀光信
Ⅷ 一庵法印なる人物について 播磨良紀
Ⅸ 大和郡山城代横浜一庵について 寺沢光世
Ⅹ 紀伊雑賀城主吉川平助について 寺沢光世
第1部では、秀長の政治的立場と役割についての論考がまとめられている。
戦国時代の政治史を研究するうえで、発給文書の分析が重要である。Ⅰは、秀長の発給文書を分析したものであり、秀長研究の基礎的な論文といえる。また、豊臣政権における秀長の政治的立場を論じたものがⅣである。この論文では、もともと天下人・羽柴秀吉が一括して行使していた権限を、従属大名の広がりにともなって、徐々に秀長に代行させていく過程がまとめられている。
また、秀長が担当した職権のうち、とくに重要なものが西国大名との取次である。取次論については、近年戸谷穂高氏が『東国の政治秩序と豊臣政権』でまとめているが、西国の事例について言及しているのがⅤである。なお、東国の取次を担当していたのが徳川家康であり、官位の面でも秀長と家康は同格であった。Ⅵでは、このような豊臣政権における2人の重鎮を比較検討している。
第2部では、大和羽柴家の領国支配と家中統制についての論考がまとめられている。秀長は天正13年(1585)に紀伊・和泉と大和を与えられ、大和郡山城(奈良県大和郡山市)の城主となった。天正19年に死去した後は、甥で養子の羽柴秀保が後を継いでいる。
このなかで、大和支配に関わるものがⅠ・Ⅱ、紀州支配に関わるものがⅢ~Ⅴである。また、Ⅵ・Ⅶでは後継者・秀保について論じている。Ⅷ~Ⅹでは、秀長の家臣について検討されている。
以上のように、各論考の概要をまとめると、秀長の研究もある程度あるように見受けられる。しかし、むしろここに掲載されている論文がほぼすべてといってよい。天下人であった秀吉や末期の豊臣政権を支えた五大老・五奉行などの研究については、論文集だけでもいくつも刊行されている。このことをふまえるならば、秀長の研究は豊臣政権研究のなかで遅れているといわざるをえない。
「豊臣兄弟!」に向けて、すでに秀長に関するいくつもの一般書の刊行が予定されている。秀長に興味を持ち、より詳しく勉強したい方は、それらの一般書を読んだ後にこの論文集を手に取っていただきたい。









