4月29日、オンラインで織豊期研究会第122回報告会が開催された。論題は小久保嘉紀氏「中・近世移行期における国替の作法・儀式の成立過程」と木村俊哉氏「「関ヶ原合戦」以後の豊臣蔵入地」の2つである。

小久保報告は、室町時代・戦国時代・江戸時代の国替の過程を比較するものである。室町時代には守護職の交代の際に、実務の引き継ぎや儀礼が行われていない。これは、守護領国は守護が自身で差配できる家産となっており、将軍からの預かり物ではなかったことが原因と考えられるという。

戦国・織豊期には、中央政権からの指示によって国替が強制されるようになったが、国替の遂行に中央政権が協力するようになった。その後、江戸時代には国替に実務の引き継ぎや儀礼がともなうようになり、ここに預治思想(天から天下人が統治権を預かり、天下人が諸大名に預けることで、大名は領国を支配することができるという思想)の広がりをみることができると指摘している。

ただし、江戸時代にも、たとえば関ヶ原の戦い後に島津氏を国替にできなかったように、完全に将軍からの預かり物とはならなかったとみなせる事例も存在する。この点、譜代大名の国替と外様大名の国替を同質のものと評価してよいかという質問が出た。また、あくまで荘園制に基づいて守護分国を支配していた室町期の守護と、領域権力として領国を一元的・排他的に支配していた近世大名は、支配体制が根本的に異なるものである。したがって、両者の相違を預治思想の有無のみに見出すことが妥当かどうかという疑問も出た。

個人的には、江戸時代になって実務の引き継ぎが行われるようになったのは、預治思想の広まりというよりはシステム化の進展と捉えたほうがいいのではないかと考えている。室町時代の史料に「預け置く」という文言が出てこないのは事実であるが、しかし将軍から守護職を与えられることで統治権を行使できるという点では、構造的には守護職は「将軍からの預かり物」であり、だからこそ罷免できる(家産ならその得分を将軍の一存で奪うことはできないのではないか)と考えている。

一方、戦国時代以降の領域支配は基本的に大名の力量に基づいた支配であり、こちらこそが大名の家産に近い存在ではないか。たしかに、譜代大名に対する領知宛行は将軍によって取り立てられたことで領域支配を任された存在であるため、預治思想に近いものになる。しかし、外様大名については基本的に戦国大名として実力で統治していた領域を将軍から追認されたものであり、こうした領域はまさに家産そのものであろう。「預け置く」という文言が具体的にどのようなときに登場するのかをみる必要があるが、本報告のまとめには大きな疑問を感じた。

木村報告では、関ヶ原の戦い以降に豊臣蔵入地がどのようになったのかを検討している。従来、関ヶ原の戦い以降、秀頼は摂河泉60万石の大名に転落したとされ、蔵入地は徳川家康が管轄するようになったとされてきた。しかし、これまでの研究は片桐且元などの羽柴家(豊臣家。筆者はこの時期の名字は「羽柴」であると考えているので、以下「羽柴氏」「羽柴家」とする)中枢に限定されている。近年では、これまで徳川蔵入地とされてきた備中国浅口郡(岡山県倉敷市など)の蔵入地が、実際には豊臣蔵入地であることが指摘されており、こうしたことを踏まえてこの報告では、且元の配下で活動した下奉行の性格を考察している。

木村氏の検討によると、片桐且元・小出秀政は秀吉生前の体制を引き継いだものであり、彼らの下奉行はかつて五奉行のもとで働いていた家臣団であったという。また、豊臣蔵入地は関ヶ原の戦い以降も諸国に設置されていた形跡がうかがえる。この点は今後も事例を追加していきたいとしている。

木村報告に対して論点となったのは、笠谷和比古氏が唱えた二重公儀体制についてである。二重公儀体制とは、小田原合戦頃から大坂の陣頃まで、西国を羽柴氏による「関白型公儀」が、東国を徳川氏による「将軍型公儀」が統治する体制であったというものである(笠谷2000)。これは、鎌倉時代の東国国家論(佐藤1983)が近世初期まで続いていたとする議論である。

しかし、鎌倉時代の国家論については、すでに東国国家論は退潮しており、権門体制論(黒田1963)や両者を中庸した二つの王権論に取って代わられている。また、とくに関ヶ原の戦い以降の秀頼と家康は対等な立場ではなく、家康が上位にあったという見方が一般的になっており、笠谷氏が提唱した二重公儀体制論はほとんど否定されているといってよい。

しかし、これはあくまでも政治的な影響力の話であり、今回示されたように徳川氏と羽柴氏の双方が蔵入地を持っていたということであれば、土地支配の面では二重公儀体制があったということになる。この点、今後の課題といえる議論であろう。

【参考文献】
笠谷和比古『関ヶ原合戦と近世の国制』(思文閣出版、2000年)
黒田俊雄「中世の国家と天皇」(家永三郎ほか編『岩波講座日本歴史』第6巻中世2、岩波書店、1963年)
五味文彦編『京・鎌倉の王権』(吉川弘文館、2003年)
佐藤進一『日本の中世国家』(岩波書店、2007年、初出1983年)