戦国時代、と聞けば、国盗りの物語をイメージする人が多いのは、昔から変わらないようにみえる。しかし、近年は戦国大名が単に戦争をしていただけではなく、領土経営や外交政策も行っており、戦争はこうした領国維持のための手段の1つであったことが判明してきている。
そうしたなかで、本書はまた違う角度で、戦国時代の解像度を上げたものであろう。本書は戦国時代に活動した商人たちの経営活動だけでなく、政治的な動き、戦国大名との絡みなどを描いたものである。
古株の商人勢力と新興商人勢力の利権争いもあれば、織田信長のような戦国大名から統一政権を作った天下人たちとどう絡んだのか、そもそも戦国大名たちにとって商人とは何なのか。多種多様な様子がみえるのである。
個人的に興味深い一例をあげれば、「商人司」「商人頭」という存在である。戦国大名に特権を与えられた商人が、商人の組織を編成し、また彼らから銭を徴収することができた。大名が直接商人を統率するよりは、商人に一任して、ある種の商人自治ができあがる。とくに、織田信長の場合は伊藤惣十郎という人物が「商人司」であったようで、本国である尾張周辺で活発的に活動していた様子がみられる。その後も、近世初期まで、福島正則や松平忠吉の時代まで特権を与えられていたというのだ。
また、伊達家の記録などからみると、商人が外交のメッセンジャーとして活動していたという記述もある。これも非常に興味深く、政治史の観点からみても商人の活動を追うことが重要になっていくであろう。
本書の特徴、というよりは著者の川戸氏の姿勢として、このような新書であっても、参照した史料・文献をリスト化してくれている点が非常に好感が高い。記述内容に関するあらゆる根拠を引っ張りだすことができるし、また引っ張りだした史料と照らしわせることで、学生や研究者にとっては新たな研究を導き出すこともできるであろう。
さて、日本史、とくに中世~近世初期において、主役となるのは武士、武家の動き、政治がこれまで注目されてきた。しかし、社会を動かしてきたのは武士だけではなく、このような商人もいるだろうし、そのほかに茶人や、もしかしたら鋳物師のような技術者集団も、何かしらの権益を握っていたかもしれない。
近世初期の徳川幕府の財政を握る側近に後藤庄三郎光次という人物がいる。江戸の金貨の製造を担った人物であり、商人筋の人物であろう。本書とは別の媒体になるが、おそらく川戸氏が本書を執筆・校正しているであろう同時期に、期せずしてというべきか、江戸期の研究者の西脇康氏が、光次や後藤徳乗発給の古文書集史料を発表した(月刊『収集』書信館出版、2025年2・4・6月号。西脇康『近世大判座・金座と金貨の研究』2025年所収)。内容は慶長期の大坂の陣に至るまでの後藤家の動きがみえるものだったが、先述の川戸氏が述べる商人の政治的な動きを補強するようなものともいえる。これらの研究を基礎として、今後は戦国から近世初期にかけての商人の研究が活発化することを期待したい。
さらには、商人の一面も指摘される千利休や、貨幣を鋳造する担当者であった鋳物師などの研究も盛んになれば、武士とは違う、戦国の一面がみえようか。また本書のあとがきに、企画段階では戦国時代の貨幣について執筆を依頼されていた経緯があったとしている。ぜひ、今回明らかにした商人の動きも含めて、そちらもいずれご執筆いただきたいものである。個人的には、織田信長や正親町天皇を想起させる、「天正通宝」が、きになるところである(秀吉が作らせたといわれているものの…)。









