私は高校の世界史の授業中、先生の話などほとんど聞かずに便覧を読み漁っていたタイプだった。そのときから常々思っていたのは、文化史のページと世界史の事件ページが分かれているのはなぜだろう、ということである。暗記事項として、また受験問題に対応するためには仕方ない措置とはいえ、とてももったいないことだ。当たり前だが、美術作品には必ず作者と注文主がいて、鑑賞者がいる。その人々はある時代・ 社会・ 地域に確かに生きていたのであって、分離して語ることはできない。
たとえば、「バロック芸術」のページには、フランスのヴェルサイユ宮殿やウィーンのシェーンブルン宮殿といった建築の写真が載せられ、ドイツのバッハやヘンデルの肖像画、そしてヴァトーの《シテール島の巡礼》やベラスケスの絵画が載せられている。しかし、これらの地域・美術には 果たしてどれほど有機的な関連があり、また正しくバロック芸術として分類できるものだろうか? 実際には、ただ時代が近しい(それでも数十年から100年ぐらい開きがあったりする)宮廷文化の有名どころを羅列しているだけ、ということが往々にしてある。
すべての芸術作品には作者が存在する。作者は社会に属している人間である。ゆえに、芸術作品を正しく評価するには、作者が属していた社会背景を考慮に入れなければならない。この当たり前とも思える考え方が、「世界史からみる美術」=「美術史」の根幹の1つだ。
新連載「世界史からみる美術」では、有名な美術的動向(印象派や分離派)や古代から現代にいたるまでの名作を、世界史的視点から考察していく。テーマを定めて特集を組み、3〜4回に分けて美術を世界史という大きなスケールから捉えていく。
最初の特集は「ウィーン分離派」とし、19世紀末ウィーンの美術的動向を、オーストリア=ハンガリー帝国の政治史や19世紀末欧州列強のパワーゲームと絡めて考察していく。お楽しみに。
サムネイル画像:ヴァトー《シテール島の巡礼》







