2.再編の示唆とその詳細について
前回は、近年の博物館行政について概観してきた。そして、前回確認した資料に基づいて中期目標において例の数値目標が設定されたのであった。中期目標では再編が直ちに閉館を意味するとは述べていないが、3月5日晩の朝日新聞記事によれば、財務省の意図としては再編に閉館が含まれうるものだともいう。
財務省の資料はどれも、東京国立近代美術館と国立映画アーカイブの二館についてそれぞれ「収益能力差」なる数値が蛍光色で強調されている。これは「入館者数等に応じた組織再編(国立映画アーカイブ、国立工芸館等の在り方の検討(分館と本館の位置づけ見直し))」という言及とあわせて考えるならば、おもに国立工芸館と国立映画アーカイブに対してなされたものと言ってよいかもしれない。
それぞれの館について入館者数などの現状と中期目標における言及を見てみよう。
国立工芸館は東京の旧近衛師団司令部庁舎において1977年に開館した東京国立近代美術館工芸館が2020年に石川県金沢市へ移転、翌2021年4月より「国立工芸館」という名称で運営されているものである。
『令和6年度 独立行政法人国立美術館 年報』を見てみると、国立工芸館は所蔵作品展が1万9519人(128日)、企画展が2万0780人(132日)となっている。これは単純に比べることが難しい映画アーカイブを除けば国立美術館の運営する6つの美術館中で入館者数・開催日数共にもっとも少ない数値である。
同館は石川県金沢市の中でも金沢21世紀美術館をはじめ県立美術館・県立歴史博物館・市立中村記念美術館など石川県を代表する文教施設が一堂に会するエリアに所在する。各館の年報によれば金沢21世紀美術館の2024年度来館者数は189万7377人(361日)、県立歴史博物館の2024年度来館者数が12万2531人、市立中村記念美術館の2024年度入館者数が1万6725人(221日)であることを勘案すると、市立美術館と共にエリア内では低調と言ってよいだろう。
中期目標に目を向けると「国立工芸館の機能強化に向けては、東京国立近代美術館の分館としての位置付けの見直しについて、館が所在する石川県、金沢市の協力も得ながら、本館化するに当たり必要となる展示スペースや人員の確保に関し、同県及び同市と協議を進める」とあって、ひとまずは本館化によって機能を強化することをめざしている。エリア内でも低調な入館者数がどこまで改善されるか次第ではどのような要求がなされるかわからないし、そのような状況下で機能も十分に強化されるかは疑わしい。
国立映画アーカイブは1970年に東京国立近代美術館フィルムセンターとして京橋に設立されたもので、2018年に分離して独立行政法人国立美術館の6番目の館として運営されるようになったものである。同館は中央区京橋の鍛冶橋通り沿いに位置しており、宝町駅・京橋駅からすぐに来館できる位置に所在している。
『令和6年度 独立行政法人国立美術館 年報』を見てみると、映画上映においては6万9159人(247日)が来館、展覧会では1万6414人(261日)が来館したという。映画上映が主軸の館であり展示室の規模も大きくないのだが、展覧会の入館者数はそれなりに長期で展示されているにもかかわらずかなり少ないものとなっている。
中期目標に目を向けるとその状況に厳しさもうかがわれる。
また、テレビなどのメディアへの映像提供の強化、所蔵作品に加え借用作品を用いた上映の強化、特別な観覧料金を設定した上映の企画、施設の積極的な貸出等を通じて自己収入の増加を図る。
主要駅や空港からのアクセスも良い立地と欧米等に人気が高いコレクションを活かし、周辺の宿泊施設や文化施設等との連携やガイドツアーの実施、戦略的な広報により、訪日外国人の誘客を強化する。
『独立行政法人国立美術館が達成すべき業務運営に関する目標(中期目標)』
収益性の高い企画を立案し、実施していくよう指示しているといったところであろうか。国立映画アーカイブは国立唯一の映画研究施設であり、その所蔵する資料には大きな価値がある。設立が予定されているメディア芸術ナショナルセンター(仮称)との役割分担などがどのようになされるのか、またあるいは共に次の世代へ残していけるのか、注視されなければならない。
おわりに
以上のように、今回の中期目標においては国立の美術館・博物館に対してその自己収入を増加していくよう数値目標が設定され、閉館を含む再編が示唆された。このような国立の美術館・博物館に対する収益性を求める動向は今世紀初頭に行われた国立美術館・博物館の独立行政法人化、公立博物館における指定管理者制度の広がりなどさまざまなかたちで表出されてきた。今回もその一連の流れにおいて理解されるものである。
財務省の求める「人口減少社会において、いかに適切なダウンサイジングをし、子供たちの負担を減らしながら質を向上していくか」という問いが、博物館・美術館においても重要な課題であることは論をまたない。しかし、博物館は大前提として社会教育法と文化芸術基本法に基づく機関であり、「資料を収集し、保管し、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資するために必要な事業を」行う組織である。博物館は市民のために開かれた社会教育施設にして文化施設でなければならない。それは登録博物館でない国立美術館・博物館も同様であろう。収益性を上げるための施策がその質的向上に繋がっているのか、という点は継続的に監視されなければならない。
中期目標において、その評価基準は収支上の数値目標と来館者の満足度に関する目標とが設定されている。はたしてこれらの基準は博物館の社会的意義を十分に捉えることのできる評価基準といえようか。また、これらの基準に示された数値目標は到達可能性や到達した際の状況に関して妥当な目標であるといえようか。これまでの経緯に関する詳細な検証と今後の動向に関する監視が必要である。
また、博物館法の見直しを示唆する財務省の諸資料は特に問題が大きいのではなかろうか。文化庁予算に関する資料にも拘わらず示されたこの示唆は、財務省が文化庁の取り組みを十分に理解していない可能性を想起させる。特に第26条の見直しは公立博物館の取り組みに対する圧迫を強めることにもなり得よう。博物館法が骨抜きにされないように、注視していかねばならない。

