KADOKAWA/2025年10月刊/四六判変型/210ページ/1914円/ISBN:9784047037441

本記事では『豊臣兄弟!』時代考証の黒田基樹氏が執筆した、『羽柴秀長とその家臣たち 秀吉兄弟の天下一統を支えた18人』について紹介する。

本書は、来年の大河ドラマの主人公である羽柴秀長について研究を進めている黒田氏が、その秀長の外交や領国統治を支えた家臣団の事績を詳細にまとめたものである。有名な藤堂高虎のみならず、家老筆頭であった桑山重晴、領国統治に奔走した小堀正次と横浜良慶など、なかなかに有能な人物たちが秀長を支えているようすがみられる。秀長の直臣だけでなく、秀吉から付けられた与力の臣たちの解説がなされている。

本書を執筆するに至った理由としては、当然『豊臣兄弟!』の制作過程にある。ドラマを制作するうえで、秀長を支えた家臣団たちの動向の把握が必要であり、その作業を行ったうえで本書に起こしたというところのようだ。

ただ、そういった制作過程であるがゆえに、本書は、ある意味家臣団たちの動向を、丹念に史料を追って1つずつ時系列的に記述したものとなっており、年表のように感じられてしまうかもしれない。大きなおもしろい議論を聞いてみたいという方には逆におすすめできない部分があることは先に述べていく。それだけ、秀長周辺の研究が進んでおらず、こういった事実の羅列を起こしていく基本的な作業が必要になってしまうのだ。むしろ本書をドラマ視聴の副材料にすることをおすすめする。

重臣たちでとくに目立った活躍をしているとみられるのが、当然ながら軍事・外交面で活躍した藤堂高虎だが、それだけではない。秀吉から付けられ、その後秀長の直臣となる桑山重晴は秀長軍の一指揮官として活躍し、領国重要拠点を任されている。検地奉行として財政管理をしていた小堀正次、執政としての役割を担っていたであろう横浜良慶らの動向も注目できる。その他にも、さまざまな家臣たちの動向が窺える。

また秀長だけでなく、彼の後継者たる羽柴秀保時代の家臣たちの動向も本書では紹介されている。これも、本書の特徴であろう。当然、彼らをまとめている以上、現段階で判明した点をもとに家臣団たちの特質などについてまとめている章もある。無論、もっと踏み込んだ議論が必要になるのであろうが、こういったところがどうドラマ上で描かれていくかを楽しみにしてもいいだろう。

また、奈良に貸付を行い利息を徴収する担当者として、井上高清という家臣がいる。この人物については、本書の第6章で非常におもしろい一件があるのでここでも取り上げる。秀長の後継者となった羽柴秀保の時代で、秀保本人は朝鮮出兵時の名護屋に在陣していた時期のことである。奈良町衆が秀吉側近たちに対して、南京奉行であるこの井上高清の不正を訴訟する事件が発生したのである。

13か条にも及ぶ長文であり、本書でその長文が読める。この史料は相当に興味深い条文だと感じているので、気になる方は史料も読んでいただきたい。本書においても、概要をとどめるレベルになっているが、秀長死去後にその不正が顕著にあらわれるようになったという。またその不正の内容も、高清の立場の性質上当然というべきか、金銭の着服が見られる。

その史料条文の4~6条文目になるが、その中では後藤が吹いた金についての問題も起こっている。後藤とは、豊臣政権内で、いわゆる「天正大判」を製作したであろう後藤徳乗のことであろう。その後藤が吹いた金が、またこの井上高清の訴訟事件の着服にもつながっているようすがみられる。

後藤徳乗は金工師であるが、貨幣を鋳造した者としては商人的な性質も持っていただろうし、のちの幕府政権内では、後藤氏の別家として後藤庄三郎がその財政の実権を握っている。

秀長に話を戻すと、俗説において秀長の領国統治において奈良への融資の話があがる。秀長がケチである、お金にうるさいなどといったイメージを持つ原因となる俗説である。しかし、黒田氏はこういった金銭の貸付において、高利貸としてというよりは統治権力としての融資ととらえている。事実、秀吉によってその貸しは破棄されているからである。なお、この点については、黒田基樹『秀吉を天下人にした男 羽柴秀長 大大名との外交と領国統治』〈講談社、2025年〉もお読みいただきたい)。

当然融資を行うには、その金が必要であるが、そのモノ史料としての媒体、「実物」としては天正大判などであったのだろうか。歴史学、とくに戦国・織豊期においてはなかなかモノ資料が注視されないところではあるが、豊臣政権期においては天正大判という大きなモノ資料があるので、秀長ブームの際には注目されてほしいものである。このように感じるくらいには、個人的に非常に興味深い史料であった。

最後になるが、正直なところ、大河ドラマの主人公が羽柴秀長と聞いたときは、おもしろくなさそうだなと思ってしまったのが本音である。しかし、昨今の秀長に関する書籍がさまざま刊行され、また本書を読んだ際、予想以上に秀長の豊臣政権への影響は大きいのではないかと感じた。ドラマがきっかけで人物が取り上げられ、周辺史料が浮かび上がってくる。豊臣政権の研究が、より深化していくことであろう。