2026年4月22日から6月21日までサントリー美術館で「ゴールドマンコレクション・河鍋暁斎の世界」展が開催された。なお、本展覧会は巡回展示であり、7月11日から9月23日までは神戸市立博物館で、10月10日から12月6日までは静岡県立美術館でも開催される。また、サントリー美術館では一部作品が撮影可能となっている。
イスラエル・ゴールドマンは画商であり、世界有数の暁斎作品のコレクターでもある。彼のコレクション展は日本で過去2回行われているので、ご存知の方も多いだろう。今回はすべての展示品がコレクションから出品される大規模な展示になっている。
本展覧会の構成は以下の通りである。
第1章 ゴールドマン・コレクションのスターたち
第2章 けもの
第3章 ひと
第4章 おに
第5章 かみ・ほとけ
第6章 版画の名品
1章はスターたちと銘打っているだけあり、暁斎肉筆画のなかでも「地獄大夫と一休」などの名品をそろえている。コレクションの一号となった「半身達磨図」や彼が本格的に暁斎作品のコレクションを始めるきっかけになった「象と小熊」の展示もあり、来場者はコレクションの原点を見ることができる。
「象と小熊」はゴールドマンが商品として買い入れ、客に売却した作品であるが、売却後に「どうして売ってしまったのだろう」と激しい後悔に襲われ、その後何年もかけて買い戻した作品である。象が優しい目をして鼻で小熊を撫でているという絵だ。そして、その小熊がものすごくかわいい。絵全体がものすごくかわいくて、売ったことを激しく後悔したのもさもありなんと納得する作品である。


暁斎といえば動物と言っても過言ではないほど、重要な作品モチーフである。とくに、百円鴉のエピソードは有名だろう。暁斎は動物を通じて世を風刺した作品も多くあり、かわいいだけでも滑稽なだけでもないのであるが、生き生きとしたその姿に目を奪われる。
「猫又図」と「石灯籠の上で寝る猫」は並べて展示してあり、まるで夜通し踊り、疲れた猫又が寝ているかのように見える。ただ、猫の模様が違うのでおそらくは別猫であろう。「猫又図」には残像の線が書かれており、まるで動いているように見えるのもかわいい。


「猩々暁斎漫画小品」は全18図を収めた画帳である。さまざまな画題の作品が収められているが、なかでも「鴉天狗の雛」は「その発想はなかったなぁ!」と思った作品である。鴉天狗が卵から孵化し、ふわふわの羽毛のかわいい雛として描かれている。鴉天狗の頭巾も雛の頃からかぶっている。つまりあの頭巾は体の一部なのだ! ちなみに孵化したての雛は瞬膜(眼球を保護するための透明、あるいは半透明の膜。鳥類・爬虫類で発達している)を閉じてるように描かれており、鳥もかなり観察していたであろうことがうかがえる。
「水吸の虎」はむくむくした大きな虎が水を吸っている姿が描かれているが、これも大変かわいい。目が猫のように細くなっているので、実質的には猫と言って差し支えない。いや、それは言い過ぎであるが、虎の瞳孔は猫のように伸縮しない。日本に虎は生息していないため、伝統的に同じネコ科の猫を参考にして描かれているので、猫のような虎図がある。
「加藤清正の虎退治」で描かれる虎は打って変わって迫力満点である。しかし、やはり目は猫である。清正たちの人物は歌川国芳の武者絵のようであり、山水は狩野派の伝統的な描き方をしており、暁斎の画業の道のりが垣間見える作品だ。
暁斎というと諧謔の強い戯画的な作風に注目が集まるが、狩野派で修行を積んだ絵師でもあるため伝統と格式に則った作品も多い。また子供の頃に歌川国芳にも教えを受けている。
そんな狩野派絵師としての実力が十分に発揮されているのが、「酒吞童子絵図」である。
これは狩野元信の「酒吞童子絵巻」をもとにして描かれたもので、有栖川宮家からの依頼で作成されたと伝わる。宮家としては子供たちのためにおとぎ話風のものを描いてほしかったようだが、暁斎はお伽→御伽草子ということで御伽草子の有名作品の酒吞童子を題材に取ったようである。しかし狩野派正統の絵で描かれた酒吞童子は子供たちには怖かったようで、宮家から「別ので……」と言われてしまい、イソップ物語の絵を代わりに納めたということらしい。しかしあまりに残酷な描写は省略されているので、暁斎的には子供向けに気を遣ったのかもしれない。
とはいうものの、酒吞童子の首を斬るシーンはやはり血の表現が多いので、宮家側が「ちょっと……」となるのもうなづける。
「風流蛙大合戦之図」は3枚続きの錦絵で、元治元年(1864)7月19日に起こった禁門の変を題材に取ったと思われる作品である。これが発表されたのが同年の7月中なので、江戸に情報が届いてすぐに描いたものだろう。愛嬌たっぷりの蛙たちがガマの槍や弓で戦う姿が描かれている。首を獲られる蛙もおり、戯画化されていても戦争の一端を伝えている。西南の役を描いた錦絵「不可和(かわず)合戦之図」でも戦争を蛙で戯画化している。こちらでは蓮の茎の銃を持つ蛙たちが増え、行軍用の背嚢(はいのう)を背負ってる蛙もいて、装備が近代化されている。禁門の変でも銃は使われていたはずであるが、京都での出来事のため武器の種類などは伝わっていなかったのかもしれない。あるいは伝わっていても、戦いのない江戸では合戦に銃はピンと来なかったのかもしれない。
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展覧会出品からいくつかの作品を挙げて感想を述べたが、語りたい作品は本当はもっとある。「書画会図」の多彩で楽しそうな雰囲気や、かっこよかったりおかしみ溢れたりする鍾馗と餓鬼たちなど魅力的な作品が多く展示されていた。
暁斎は作品数も多いため、ゴールドマンコレクション以外でも展示の機会は多い。博物館や美術館で暁斎作品に出会ったらぜひその魅力に触れてほしい。



