はじめに――中期目標とその概要

2026年3月4日、文化庁のホームページにおいて、所管する独立行政法人の中期目標が公表された。今回公表されたのは国立文化財機構・国立美術館・国立科学博物館の3法人の第6期中期目標にあたる。

今回、とくに注目されているのが展示事業に関する項目で掲げられた数値目標である。それぞれ、法人全体の展示事業にかかる費用に対する、展示事業の自己収入額の割合が2030年度までに65%となること、次々期に100%となることを掲げた。また、国立文化財機構・国立美術館の中期目標において掲げられた、より厳しい数値目標と再編の示唆は強い衝撃を与えるものであった。

それとともに、国立美術館・博物館の持つ問題が改善するどころか悪化の一途を辿っているという状況を再確認させるものでもあったといえるだろうし、国立博物館に限らずここしばらく続いてきた美術館・博物館の苦境に関する1つの事例としても大きな意味を持つだろう。

本記事ではこの問題について若干の整理を試みる。

該当する記述は以下のもので、文化財機構中期目標の「Ⅲ―1―(2)展覧事業」と、国立美術館中期目標の「Ⅵ―2.法人機能強化・再編に向けた各館の基本的性格・役割の明確化」に記載がある。

また、各館の展示事業に係る費用に対する展示事業に係る自己収入額の割合が、本中期目標期間の4年目において、「4割」を下回っている等社会的に求められている役割を十分に果たせていないと考えられる館については、再編の対象とすることとし、令和13年度以降の次期中期計画に具体的な再編内容を記載し、それを実行する。

『独立行政法人国立文化財機構が達成すべき業務運営に関する目標(第6期 中期目標)』

下記のとおり各館の基本的性格・役割を明確にした上で、国立美術館全体の機能の再編・強化に向けた取組を進める。具体的には、「各館の展示事業に係る費用に対する当該館の展示事業に係る自己収入額の割合」が、本中期目標期間の4年目において、4割を下回っている等社会的に求められている役割を十分に果たせていないと考えられる館については、再編の対象とすることとし、令和 13 年度以降の次期中期計画に具体的な再編内容を記載し、それを実行する。

『独立行政法人国立美術館が達成すべき業務運営に関する目標(中期目標)』

以上の通り、国立文化財機構・国立美術館の運営する各館について、2029年度の展示事業に関する費用と展示事業に関する自己収入額の割合が4割を下回っているなどの場合、2031年度以降に再編していくとしたものである。

この文言は独立行政法人国立文化財機構・独立行政法人国立美術館の中期目標に見られるが、国立科学博物館ではこのような目標は掲げられていないらしいことに留意したい。

国立文化財機構は5つの博物館(東京国立博物館・京都国立博物館・奈良国立博物館・九州国立博物館・皇居三の丸尚蔵館)と東京文化財研究所・奈良文化財研究所・アジア太平洋無形文化遺産センターの計8施設を運営する文化庁所管の組織である。尚、これらの施設の中で展覧事業費が計上されているのは5つの博物館である。

国立美術館は8つの美術館(東京国立近代美術館・国立工芸館・京都国立近代美術館・国立西洋美術館・国立国際美術館・国立新美術館・国立映画アーカイブ)を運営する文化庁所管の組織である。中期目標などに示されているように、常設展示を持つ展示施設「メディア芸術ナショナルセンター(仮称)」の設立が準備されている。

1.中期目標策定の経緯と財政審関連資料

今回の中期目標で示された内容は2025年12月に財務省主計局文部科学係から公表された『令和8年度 文教・科学技術予算について』(以下、主計局資料)にみえる「令和8年度予算編成に係る文化独法改革等の方向性①・②」において示されたものとほとんど同じである。さらにさかのぼると同年11月11日の財政制度等審議会における財務省作成資料の『文教・科学技術』(以下、財政審資料)に示されている。

財政審資料によれば「文教・科学技術予算のテーマは「人口減少社会において、いかに適切なダウンサイジングをし、子供たちの負担を減らしながら質を向上していくか」」であるという。この視点に基づき、財務省は「入場料収入を確保して公費依存度を低下させ、サスティナブルな経営体質に転換を図っていくべき」(財政審資料)と求めた。この方向性が国立文化財機構・国立美術館の中期目標に反映されたのである。

主計局資料では具体的に「各館の運交金依存度目標を記載するとともに、その達成のために以下を含む自己収入増加に向けた具体的な取り組みを記載すること」として、入館料の見直し、文化財の公開期限の見直し、夜間開館日や開館時間の増加、メディア芸術ナショナルセンター(仮称)の方向性の4点が示されている。実際にこれらは各法人の中期目標に取り込まれている。

主計局資料で注目されるのは「入館者数等に応じた組織再編(国立映画アーカイブ、国立工芸館等の在り方の検討(分館と本館の位置づけ見直し))」「運交金依存度目標を達成できない館の在り方を含め再編の検討」である。再編という単語が、とくに美術・文化財関係者に大きなインパクトを与えていることは言うまでもない。

とくに後者の文言について「運交金依存度目標を達成できない館の在り方を含め再編の検討」というのを見てみよう。これがまさに今回の問題となった数値目標に直接関連する言及である。主計局資料、さらに2025年12月2日の財政制度等審議会建議において直接の言及を見ることができる。

我が国の国立美術館・博物館は、全体に公費収益に対する入場料収入の割合が低い。例えば、国立美術館全体としては、その運営にあたり、入場料収入の4倍、館によっては最大 24 倍の公費が投入されている。その結果、国立美術館・博物館全体の7割以上で、その収入に占める国からの運営費交付金の割合が5割を超えている状況である。

また、我が国の美術館・博物館全体では、博物館の入館料を無料としている割合は上昇傾向にあり、公費依存の傾向が進んでいる。今後は、「博物館法」(昭和 26 年法律第 285 号)を見直した上で、受益者からの適切な入場料の徴収によって公費依存体質から脱却し、持続可能な収益構造に転換することで、日本が保有する貴重な国民的財産である文化財を後の世代に着実に引き継いでいくことが重要である。

『令和8年度予算の編成等に関する建議』

〇 我が国の国立美術館・博物館は、全体に公費収益に対する入場料収入の割合が低い。(中略)その結果、国立美術館・博物館全体の7割以上で、その収入に占める国からの運営費交付金の割合が5割を超えている状況である。

〇 今後は、「博物館法」(昭和 26 年法律第 285 号)を見直した上で、受益者からの適切な入場料の徴収によって公費依存体質から脱却し、持続可能な収益構造に転換 することで、日本が保有する貴重な国民的財産である文化財を後の世代に着実に引き継いでいくことが重要である。

『令和8年度 文教・科学技術予算について』(傍線等原資料ママ)

この建議を引きつつ、省略するかたちで作成された主計局資料はあたかも国立美術館・博物館において運営交付金の割合が高い状態を、博物館法の見直しによって改善すべきとみえるようになっている。

まず、元の建議自体が博物館法について公教育制度の破壊を企図しているのかとでも疑ってしまうような文言をいくつも含んでいる。しかも、主計局資料の省略はこれまでの国立美術館・博物館制度の歴史からすると誤った印象を与えるようなものになっている。これは不勉強によるものかあるいはあえて誤認を促しているものだろうか。

建議において驚くべきは後段の文章であろう。「博物館の入館料を無料としている割合は上昇傾向にあり、公費依存の傾向が進んでいる」とある。入館料を無料とする割合が上昇するのは博物館法第26条に基づいて運用する館が増加しているという成果に他ならない。法に則った運営を公費依存であるとし、「「博物館法」(昭和 26 年法律第 285 号)を見直した上で」としている。これは博物館法第26条、公立博物館の入館料について定める条目を変更すべきとの建議であるとみなしてもよいのではないだろうか。

第26条(入館料等)

公立博物館は、入館料その他博物館資料の利用に対する対価を徴収してはならない。ただし、博物館の維持運営のためにやむを得ない事情のある場合は、必要な対価を徴収することができる。

『博物館法』

博物館はICOM規約をはじめ一般的な認識において非営利組織としてみなされている。博物館法もまた同様の認識に基づいて記述されている。

主計局資料はさらに大きな問題を含む。

国立美術館・博物館の収益構造を問題視した次の項目で博物館法の見直しを提起する。これは文化庁予算に関する資料であり、その中心は国立美術館・博物館を運営するための予算に関する説明であるが、ここにおいて博物館法の見直しを求めているのだ。

博物館法第26条にいう公立博物館は博物館法2条2項において定義されたもので、地方公共団体・地方独立行政法人の設置した登録博物館をいうと定められている。国立美術館・博物館は地方公共団体・地方独立行政法人による設置でもなければ登録博物館でもない、すなわち公立博物館ではない。これは文化庁がこれまで説明してきたところのものである。

文化庁は、長らく国立美術館・博物館が博物館法の埒外にあるとしてきた。この状況は学術会議によって「全国の博物館行政を指導すべき国立館が「博物館」でないのは、制度の歪みである」とまで指摘されながら、大きな進展を見せていない。文化庁の方針は令和4年の博物館法改正に向けて行われた文化審議会の答申に見える言葉が分かりやすい。

我が国の博物館に関する法令においては、国立博物館に係る独立行政法人個別法令等と、公立・私立博物館に係る博物館法が、両輪として体系を構成しているのであり、実務上は、博物館法の登録の対象とする必要は必ずしもないと考えられる。

文化審議会「博物館法制度の今後の在り方について」(2021年12月20日)

この問題は博物館法の改正に際して博物館相当施設に関する条目(旧法31条、新法29条)が再編されたことによって一定の進展を見せたとされる。とはいえ、国立館が博物館法上の登録博物館でないことが文化庁の方針である点は変わりなく、博物館法の歪みは無くなっていない。

文化庁の述べるところによれば、国立美術館・博物館は公立博物館ではなく、博物館法第26条に基づいて入館料を考える必要はないのではなかったか。国立美術館・博物館の収益に関係しない項目をあたかも関連するかのように見せかけ博物館法を変えようとしているのか、あるいは資料作成者は国立館に関する文化庁の方針すらも知らずに文化庁予算に関する資料を作っていたのか。いずれにせよ等閑視できる資料ではない。以上の前提をふまえて、次回は2026年に発表された中期目標についてみていきたい